森口 智規
子どもの頃からレゴやプラモデルが好きだったという森口。就職先として村田機械に惹かれたのも、繊維機械のからくり人形のような仕組みに興味を持ったのがきっかけだ。しかし、当時の森口はすでに大手ゲーム機器会社の内定を得ており、省庁からも誘いが来るほどの引く手数多。村田機械への入社の意思はほぼなかった。が、それを覆したのが、会社訪問で接した村田機械社員との出会いだった。
「就職活動では、複数の大手企業を訪問しました。扱っている製品がとても大きかったり、社会インフラを支える製品だったり、スケールが大きいなと正直思いました。でも、何か物足りない気がしたんです。そこで働く自分の姿が想像できなかったのかもしれません。でも村田機械は少し違ったんです。面談させていただいた村田機械の関係者は、若手技術者から役員まで、皆さん本当に楽しそうに自分の開発したものの話をしてくださったんです。」 「自分もこんな気持ちを持って仕事をしたい」自らの仕事の楽しさ、面白さを熱っぽく語る村田機械の社員の皆さんの様子に感銘を受け、最終的に入社を決めたという。
私は学生時代、アメフト部に所属していて、私大の強豪校としのぎを削っていました。大学からアメフトを始めたメンバーがほとんどの私たちのチームが、中高時代からアメフトをしてきた経験豊富な競合相手と互角に戦うには普通のことをやっていても勝てません。相手の強み弱みを分析し、どこをどう攻めたらよいか、体力的に劣る自分たちでできるプレーの限界を見定めた上で、最大限の努力と準備をすることが勝つためには重要で、考えた戦略、戦術が成功して勝利した時の達成感は格別でした。就職活動をしていた時、アメフト部の監督が言われていたのが、「トップの大手企業なんて面白くない。お前たちが入社しようがしまいが大手なんやから。そんな大手を相手に如何に勝つか、それこそが仕事の醍醐味や。会社の規模でなく、一番を狙える企業に入れ。そして自分の力で会社を一番にする仕事をしろ」という言葉です。
私は村田機械に入社以来、色々なことにチャレンジしてきましたが、何があっても挑戦することをあきらめなかったのは常にこの言葉が胸にあったからかもしれません。会社を変えてやろう!なんて大それた思いではなく、自分の提案や行動が少しでも周りに良い影響を与えられたら…こんな技術があったら世の中がもっと良くなるかも…そんな思いで私は今日までさまざまな挑戦を繰り返してきました。そこには成功もあり、時には失敗も、いえ失敗の方が多かったかもしれません。しかし、私に後悔はありません。そんな挑戦の軌跡と、それを認め支えてくれた村田機械の懐の深さをこれからお話したいと思います。
入社後1年間の技術研修を経て、念願の繊維機械事業部に配属。入社4年目にはアメリカ駐在の機会をいただきました。約3年間、現地スタッフとともに販売・据付・アフターフォローに携わりながら、お客様への製品紹介や競合とのコンペ、不具合原因の究明など、さまざまな経験を積みました。その経験のなかで、「これからはメカだけでなく電気やソフトウェアをもっと取り入れ、制御でも特色を出さねば競合には勝てないのでは?」という思いを抱きました。
駐在を終えて繊維機械事業部に復帰後、再びメカ設計者として設計業務に取り組みながらもその思いは消えていませんでした。半年後、たまたま私が目にしたのが「RoboCupプロジェクトメンバー募集」の社内公募でした。このことがその後の会社人生を大きく変える転機になったと思います。「ロボット開発を通じてさまざまな制御技術や知見を吸収できれば村田機械の製品群の性能アップにもつながる」というプロジェクトの趣旨にも大いに共感。繊維機械事業部での開発に後ろ髪を引かれながらも、“メカ+ソフトウェアの技術の組み合わせ”でこれまでできなかったことを実現したい、とプロジェクトへの応募を決めました。ちなみに「RoboCup」とは自律移動型ロボットによる競技会で、公募されていたのは「ロボカップサッカー」に参加するためのロボット開発に携わるメンバーです。
私は繊維機械事業部からR&Dセンターへと移り、3人の仲間とともにロボット開発に取り組みました。ロボットのメカ設計と走行関係の制御プログラム開発が私の担当で、当時は毎日深夜までソフトウェア開発に没頭していました。社内では「ロボットでサッカー?遊んでいられていいよね」という声もありましたが、風当たりが強ければ強いほど「単にサッカーをやっているんじゃない。ここで得た技術を製品の機能向上につなげるんだ」という思いが高まっていきました。しかし、技術面での具体的なフィードバックを社内に展開できないまま「RoboCup」プロジェクトは3年で終了。当時の不甲斐なさは今も忘れることはありません。
ところがそんな時、またしても運命の機会が訪れます。偶然参加した会議でRGV(有軌道無人搬送台車)の走行動作のサイクルタイム短縮という課題が持ち上がり、「RoboCup」プロジェクトで培った技術を生かせないかと提案したところ、一度試してみようということに。走行位置を認識する新しいセンサシステムの開発に加え、そこから得られる情報と走行車輪を前後輪別々にトルク制御することで、できるだけスリップしない走行を実現しようと提案したところ、これが効果を発揮。これまで停止間際にかかっていた低速走行(クリープ走行)が不要になり、ぴたっと止めることができたのです。さらにこの技術を発展させ、私はクレーン台車の制振制御にも着手。クレーン上端が揺れるため止まってすぐに荷物の出し入れができないという課題を克服しようと、クレーン筐体の振動解析を行い、振動を制御する走行パターンを実現しました。この成功により、走行時間は長くなっても荷物の出し入れまでの時間を短縮することができたのです。これら走行制御に村田機械独自の制御アルゴリズムを組み込む開発は現在の村田機械の走行制御、制振制御技術の礎となり、他社にはない強みになっていると自負しています。
プロジェクトストーリー